すべての記事

家族介護の方へ:AI(人工知能)の得意なこと・苦手なこと

親や配偶者の介護をされている方の中には、「AIって介護に使えるの?」「ChatGPTに介護の相談をしていいの?」と疑問に思われる方も多いでしょう。この記事では、AIが医療・介護の場面で何ができて、何ができないのかを、専門用語をできるだけ使わずにお伝えします。

AIが得意なこと

1. 決まったパターンを見つけること

AIは「よくあるパターン」を覚えて、そこから判断することが得意です。

病院での検査の見落としを減らす

AIは、レントゲン写真やCT画像から「異常の疑いがある部分」を素早く見つけられます。研究では、骨折の有無や肺炎の兆候などを、医師とほぼ同じくらいの精度で見つけられると報告されています。つまり、病院の検査で「見逃し」が減る可能性があるということです。お母さんやお父さんが検査を受けるとき、医師の確認をAIがサポートする形が増えつつあります。

体の変化をいつも監視する

血圧や心拍を測る小型の機器(ウェアラブルデバイス)とAIを組み合わせると、「いつもと違う状態」を早めに検知できます。例えば、発熱や不整脈の兆候を数時間前に予測し、家族や医療者に知らせる仕組みの研究が進んでいます。

2. 同じ作業を何度も正確にこなすこと

介護の記録やスケジュールの手助け

介護では、日々の様子をメモしたり、服薬や通院のスケジュールを管理したりする作業が多くあります。AIは、こうした「繰り返しの作業」を手伝うことが得意です。音声で話すと文字におこしたり、カレンダーに予定を入れたりするツールも、AIの技術を使っています。

介護施設の運営を効率化

施設では、入居者さんの食事や薬の管理、スタッフのシフト調整など、多くの決まった作業があります。AIを使うことで、これらの作業の効率が上がり、スタッフが一人ひとりの入居者さんに向き合う時間が増えることが期待されています。

3. たくさんの情報から「必要なもの」を探し出すこと

介護や病気について調べる時の助け

「認知症の人が夜中に起きてしまうとき、どうすればいい?」「膝の痛みがある高齢者向けの運動は?」など、介護中にはさまざまな疑問が出ます。AIチャット(ChatGPTなど)に質問すると、関連する情報をまとめて返してくれます。ただし、そのまま信じるのではなく、地域のケアマネジャーや医師に確認することが大切です。

介護サービスの選び方の参考に

「要介護3の場合、どんなサービスが使える?」「デイサービスとショートステイの違いは?」といった質問にも、AIは一般的な情報を教えてくれます。あくまで「下調べ」として使い、最終的には市町村の窓口やケアマネジャーに相談してください。

4. リハビリや介護計画の「たたき台」を作ること

自宅でできる簡単な運動の提案

AIは、お父さんの体力や症状に合った「自宅でできる簡単な運動」の例を提案できます。例えば、「椅子に座ったままできる足の運動」や「転ばないためのバランス練習」などのメニューを出してもらえます。ただし、実際にやる前には、かかりつけ医や理学療法士に「この人に合っているか」を確認してもらいましょう。

介護計画のイメージを持つための補助

「これくらいの介護度なら、こういう支援が考えられる」といった一般的なプランを、AIが例として提示してくれます。実際の計画は、ケアマネジャーが家族と話し合って決めますが、事前にイメージしておくのに役立ちます。

AIが苦手なこと

1. 「空気を読む」「本音を察する」こと

表情や声の調子から気持ちを読み取れない

介護の現場では、「大丈夫」と言っていても、表情や声の様子から「実はつらそうだな」と感じることがあります。AIは、こうした「言葉にしていない気持ち」を読み取ることが苦手です。お母さんが本当はどう感じているか、不安があるかどうかは、家族や介護職員が face to face で関わってこそ分かります。

虐待やネグレクトに気づくのは人間の役割

高齢者が施設や家庭で適切にケアされているかどうかは、AIだけでは判断できません。日々の様子をよく見て、「いつもと違う」変化に気づくのは、家族や介護の専門家にしかできないことです。

2. よくあるパターンに当てはまらない状況の判断

複数の病気が重なっているとき

高齢者には、認知症と糖尿病、心臓の病気など、いくつもの持病が重なっていることがよくあります。そんな「複雑な状況」を、AIはうまく整理しきれません。教科書に載っているような典型的な症状ばかりを学んでいるため、実際の介護現場で起きる「少しずつ違う」出来事には弱いのです。

「分かりません」と正直に言わないこともある

AIは、本当はよく分かっていないのに、あたかも答えを知っているように答えてしまうことがあります。介護や医療のような重要な判断は、必ず人間の専門家(医師、ケアマネジャー、看護師など)に確認してください。

3. 倫理的・人間的な判断

「どこまで治療を続けるか」などの決断

終末期の医療方針や、本人の希望と家族の考えが食い違う場面では、AIに「正解」を出してもらうことはできません。どんな治療を望むか、どこまで介護を受け入れるかは、本人の尊厳と意思を尊重しながら、家族や医療・介護の専門家が話し合って決めるものです。

責任を取れるのは人間だけ

AIが誤った情報や判断を出した場合、責任を取るのは使っている人間や開発した企業です。介護や医療に関する大事な決定は、最終的には必ず人間が責任を持って行う必要があります。

4. 本当の共感と信頼関係

悪い知らせを伝えるとき、寄り添うのは人間

「認知症が進行しています」「余命について」といった話を、家族に伝え、気持ちに寄り添うのは人間にしかできません。AIは、そうした場面で本当の「共感」や「支え」を示すことはできません。

毎日会う人との信頼関係

介護では、毎日顔を合わせて、「今日は調子が良さそう」「少し元気がないな」と感じ取ることが大切です。こうした信頼関係の積み重ねは、人間同士でなければ築けません。

5. データの偏りによる誤り(バイアス)

AIは、これまで集まったデータをもとに判断します。そのデータに偏りがあると、特定の年代や性別、病気の種類によって、AIの答えの正確さが下がることがあります。研究でも、 AIの判断が「公平でない」ケースが報告されています。介護の現場でAIを使う際も、「この答えは本当に自分の家族に当てはまるか」と、常に疑ってかかることが重要です。

介護の現場でAIをどう使うか

AIに任せてよいこと・任せてはいけないこと

任せてよいこと(参考程度に使う)

任せてはいけないこと(必ず人に相談)

介護や病気についての一般的な情報収集

病気の診断、薬の服用の判断

介護のヒントやアイデアの収集

介護サービスや施設の最終的な選択

スケジュールやメモの整理の手助け

終末期の方針、本人の意思の確認

簡単な運動メニューの「たたき台」

虐待・ネグレクトの有無の判断

実践的な使い方のポイント

  1. 「調べる」のに使う
    • 「認知症の人が徘徊するときの対応」など、まずはAIで一般的な情報を集める。
    • 得た情報は、ケアマネジャーやかかりつけ医に「こういう情報を見つけたのですが、ウチの場合はどうでしょうか?」と確認する。
  2. 「相談の準備」に使う
    • ケアマネジャーや医師に相談する前に、「何を聞きたいか」を整理するのにAIを使う。
    • 例:「要介護3の在宅介護で気をつけることをリストアップしてください」→ そのリストをもとに、専門家に質問する。
  3. 「絶対にAIの答えだけで決めない」
    • AIの答えは、あくまで参考。診断、治療、介護計画の決定は、必ず医師やケアマネジャーと相談して行う。
  4. 「違和感があれば信じない」
    • AIの答えが「おかしいな」「家族の状況と合わないな」と感じたら、無理に従わず、専門家に直接聞く。

まとめ

AIは、介護や医療の「調べもの」「準備」「メモの手伝い」などには役立ちます。一方で、本当の気持ちをくみ取ること、責任を持った判断をすること、人を支え共感することは、人間にしかできません。

家族介護をされている方は、日々大変な中で、少しでも役に立つ情報を求めていらっしゃると思います。AIを「便利な道具」として使いながら、大事な判断は必ず人と話し合って決める——そのバランスを大切にしてください。

この記事は、医療・介護分野におけるAIの研究(2025年頃の知見)を基に、家族で介護をされている方にも分かりやすいよう書き直したものです。